いまさら聞けないシリーズその16 プラグインのGAIN設定

2018年1月9日

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アナログミキサーやアナログレコーディングの時代、GAINの設定方法は非常にシンプルでわかりやすいものでした。アウトボードとミキサーはアナログケーブルでダイレクトに接続されていたり、パッチ盤経由でアナログ接続されているだけで、どこで歪やノイズが生じているか判明するのも簡単な作業でした。現在のオールインワンデジタルミキサーであったり、DAWプラグインソフトではこれらの原因追求は簡単にはできません。デジタル信号の流れは複雑になっており、またデジタルノイズは非常に微々たるもので、さらに厄介なノイズだったりもします。

DAWの登場によりレコーディングの方法が根本的に変わりました。優れたレコーディングを行うにあたりGAINの設定方法も変わってきました。誰でも簡単に使いやすいコンピューターオーディオ、DAW環境を構築することは個々のGAIN設定を怠ってしまうことが多々あり、ノイズが多く入ってしまい、結果ノイズが目立つ音源が出来上がってしまう場合が見受けられます。

すべてにGAIN設定が必要

音源は入力した瞬間からGAIN設定が必要になります。典型的なレコーディングでは入力から最終的にレコーディングが終了するまで、音源は数多くの機器を通過します。これらの機器を音源が通過するにあたり物理的なエフェクターなどのハードウェアであろうと、デジタルのプラグインであろうと機器に音源を接続した時点で適切なGAINを設定する必要があります。入力レベルが低い場合は「サー」というノイズが、逆に入力レベルが高すぎる場合は音が歪んだりクリッピングが発生します。接続した機器間、プラグインエフェクト間でGAINレベルを適切に保つことにより、最適なレコーディング環境を構築することができるのです。
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チャンネルインサートを使って外部エフェクターを接続するときを除いて、大半のプラグインエフェクトの入力レベルはミキサーのエフェクトセンドのレベルとプラグインのインプットレベルのコントロールにより設定が可能です。ミキサーのセンドレベルとプラグインの入力レベルのマッチングは適切なGAIN設定の要です。低すぎるレベルをミキサーのエフェクトセンドからプラグインエフェクトに送り、プラグインエフェクトの入力レベルを上げてレベルメーター上あわせたとしても、ノイズしかレベルが上がりません。これは例えるなら、解像度低い写真、例えばガラケーで撮った写真を大きく引き伸ばしたときに、画像の悪いまま画像のサイズだけが大きくなってしまうのと同じことです。逆にミキサーのエフェクトセンドのレベルが大きいままプラグインエフェクトに送り、プラグインエフェクトの入力レベルを下げてレベルメーター上あわせたとしても、音は歪んでしまいます。これはギターリストならギターアンプの設定で経験済みですね?ギターアンプのGAINを上げMASTERをさげると歪んだサウンドになりますよね。それと同じ原理です。ギターアンプはわざと歪ませますがレコーディング機器、PA機器での歪みは厳禁ですよ。

最適なGAIN設定を簡単に言うとすべての音源の入力/出力レベルが1対1になる設定を行ってください。この状態を「ユニティゲイン」と言います。外部エフェクターやプラグインエフェクトのバイパススイッチを押したときにレベルが極端に高くなってしまったり、低くなってしまった場合はGAIN設定が適切にされていない可能性があるので、各機器のGAINレベル設定を調べる必要が有ります。

デジタルレコーディングにおけるシグナルクリップ

デジタルレコーディングにおいてシグナルクリッピングは大きな問題になる場合が多々あります。アナログレコーディングの場合、歪みは徐々に上がって行き、最終的にクリッピングになります。デジタルの場合、歪が1dBを超えるのみでクリーンな信号からクリッピングになってしまいます。
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アナログのクリッピングとは異なりデジタルのクリッピングは聞き取りにくい場合があります。初期段階でクリッピングに気がつかずそのままレコーディングを継続した場合、そのクリッピングのデジタル情報を取り除くことはできません。デジタルクリッピングによる歪みは、そのトラックの音質に悪影響を与えます。こういったトラックがあるレコーディング音源は聞く人にとって感知されずらいですが、耳障りな音源に仕上がってしまうのです。「なんか気持ち悪いね。」というCDを聞いたことないですか?おそらくデジタルクリッピングが悪影響している音源ですよ。

ハイパスフィルターなどのプラグインはピークとトランジェントで大幅にブーストすることが出来ます。トランジェントとは音の立ち上がり部分(アタック)や余韻部分(サスティン・リリース)を調整することができるエフェクトです。この類のプラグインを使った場合、ブーストを警告するレベルメーターばかり見ていてはだめですよ。多くのDAWの設定ではプラグインインサートがプリフェーダーで設定されているためチャンネルのクリッピングが起きたままでも特定のプラグインの中の歪がレベルメーターで表示されないのです。こういった場合はあなたの耳で判断してください。それぞれのプラグインをソロボタンを押して単発で聞くことが大切です。音ですからね。目で判断せず耳で判断してください。

目で判断することも

言うまでもなく異なるタイプのシグナルプロセッサーはすべてのGAIN設定に影響を及ぼします。物理的なハードウェアリバーブマシーンは歪みが聞こえにくいということではありません。しかしながらソフトウェアプラグインリバーブの場合、エフェクトのセンドレベルが低すぎることから生じるノイズを隠してしまう可能性があります。
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マルチバンドEQは悪影響を与える可能性があります。特にピークとトランジェントの類のプラグインはGAIN設定に悪影響を与える可能性があります。現代のマルチバンドEQプラグインでは2つの異なるバンドの周波数を誤操作で重複させてしまう場合があります。またちょっとしたブースとが積み重なることによりクリッピングが気づかないうちに発生してしまっているということが多々あります。

コンプレッサーやダイナミクス系のエフェクトでは様々な問題が生じる場合があります。簡単に言ってしまうとコンプレッサーのアタックとGAINの設定はコンプレッサーから出力される信号のGAIN設定に大きく影響してしまうため特に注意が必要です。

プラグインの特徴を良く知ること

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ビンテージのギターやギターアンプの音色がそれぞれ違うのはよく知ってますよね?プラグインソウトウェアも同じです。それぞれ異なる特徴を持ってます。これはソフトウェアでもハードウェアでも同じことです。プラグインが時と場合によって異なる動作をすること、この特徴を勉強することにより適切なGAIN設定が可能になります。

アナログレコーディング時代にはプロのエンジニアはオシロスコープを使用しサイン波を流し信号を確認することでそれぞれの機器テストを行ってました。このことで各機器がどの特定の周波数でクリッピングすることを確かめることができ、適切なGAIN設定を行うことができました。

よく使うプラグインでも同じことを簡単に試すことが出来ます。DAWでオシロスコープ、もしくは周波数ディスプレイを開きプラグインの入力(出力がある場合は出力)レベルをユニティーゲインに設定し、デバイスを介してサイン波を送ります。徐々にセンドレベルを上げながら出力レベルを見てください。

もちろんサイン波によるテストは聞くことの代用にはなりませんよ。ミックス内の多くのトラックには数多くのプラグインが立ち上がっています。いくつかのプラグインを立ち上げ、エフェクトを複数かけた状態を聞くのではなく、個々のプラグインをソロで聞くことを絶対に忘れないでくださいね。

退屈で意味のない行動?

今まで述べてきたとおり、GAINの設定は派手な作業やクリエイティブな作業でもなく、地道な作業です。しかしながらGAIN設定はレコーディング作業においてもっとも重要な設定です。ただ機器の特徴を覚えてしまえば最初に設定するだけでよっぽど大きな変化がない限り設定を変更する必要はございません。ぜひ適切なGAIN設定を行っていただき、すばらしい音源を世の中に送り出してくださいね。

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