オーディエンス全体に向けて役割を果たせるホーン

C300zのホーンを設計するときヒントを得たのは大きな高出力スタジオモニターを試聴したときです。スタジオモニターは軸上の特性がなめらかで低歪ですが、これはエクスポネンシャルホーンが空気インピーダンスを一定に保ちサウンドをシルクのようになめらかにしているためです。近年では指向性をより制御してくれるCDホーンが広く使われていますが、その平行面で反射が発生して歪みが生まれてしまいます。

しかし大型スタジオモニターの指向特性は良くありませんでした。

指向特性はおおまかに「広い帯域で相似の軸外特性」と定義することができます。多くのスピーカーは90°水平ディスパージョンを表記していますが、ポーラー・パターンを注意深く調べてみると、全ての周波数で90°水平ディスパージョンが実現されてはいないことをお気づきになるでしょう(左図)。研究室ではなく実世界では、ライブの会場に足を踏み入れたときからほとんどの時間をスピーカーの軸外で過ごしていることになります。高域の指向性が均一ではない(指向特性が良くない)スピーカーの場合、フルレンジでのサウンドはかなり狭いエリアだけに一筋の光線のように放射されています。スピーカーの正面にいればすばらしいサウンドを楽しめますが、軸外にいるとにごって切れ味の悪い、そしてむらのあるサウンドを聴かされることになるのです。


指向特性が悪い(グレーの部分)と周波数によって指向パターンが変化します。1kHzでは問題のないスピーカーでも周波数がさらに高くなれば指向性が狭くなっていきます。

そのためここでは問題が発生します。エクスポネンシャルホーンのなめらかな特性という利点を生かしながら高域での指向性が狭くなる問題を解決するにはどうしたらいいのでしょうか。

その解決法はマルチセルスロートとエクスポネンシャルホーンの幾何を組み合わせ、必要とされる指向特性と低歪を実現することでした。

世界最高の音響学者たちの努力によって、C300zに採用した 羽付ホーンではすばらしい指向性という利点を維持しながらも歪みを減らしています。研究スタッフによる数学的な計算とモックアップ製作から導き出されたのが羽根状のものが2つ付いたスロートと、エクスポネンシャルと円錐に分かれたようなホーンでした。フェーズプラグを羽根のすぐ隣に配置することで反射を最小限に抑えています。

この設計の結果ホーンの開口部がかなり大きくなり、クロスオーバー周波数での出力特性がすばらしいものになりました。軸から45度の位置に立ってフルレンジのサウンドをお楽しみください。