時間と空間:ホームレコーディングスタジオにおける環境

2021年5月6日


巣ごもりで時間があるからこそ、空間のお話です。
在宅需要が増え、多くのミュージシャンやコンテンツクリエーターなどがホームスタジオをより良いものにしようと考え始めました。それは同時にホームスタジオといった空間がもたらす音響面での課題を発見することから始まります。

ご近所さんから苦情がはいりましたか?隣の部屋の壁までも震わすような低域を再生してませんか?不快なサウンドが拡張されてませんか?悪い音響空間で作業をすると、良いミックスは作れません。

薄い壁、狭い空間、低い天井、共振してしまう窓枠。一般的なホームスタジオの多くが抱えている問題ですが、この問題はごく一部にしかすぎません。

幸いなことにマルチトラックレコーディングの技術の進歩、低価格で高品位なサウンドを提供するDAWの発展によりホームスタジオが抱えている問題のいくつかは簡単に解決することができるようになりました。ここでは音の問題を解決するためのいくつかのアイデアをご紹介いたします。

音響処理
ここでは、音響処理の概念を基本的に2つに分けて考えます。

  • 防音と遮音
  • 反射と拡散

防音と遮音
遮音は外への音を遮断するとともに、外からの音も遮断します。遮音と密接に関係しているのは個々の音がお互いに影響しあわないようにするアイソレーションです。よってまずはじめに取り組むべき課題は音が漏れる可能性のある個所をブロックする防音と遮音です。いくつかの方法がありますが、まずは質量を確保することです。密度の高い素材を採用した厚い壁であればあるほど防音効果が高くなります。

質量と空間の組み合わせはより効果を発揮します。「フローティングルーム」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、既存の空間の中に全く新しい壁、床、天井を作り、外壁から数センチ離して(床の場合は、振動の伝達を軽減するゴム製の「フローター」を使って)設置する防音室です。部屋の中に部屋があるようなものです。防音のドアや窓、防音の壁パネルを、あらかじめ設定されたサイズやカスタムサイズで提供してくれる会社もあります。

既存の構造体の中で音漏れが発生しそうな箇所を塞ぐことも防音と遮音効果があります。ドアや窓の枠には、サイズに合わせて最も厚く、高密度のウェザーストリップ(ドアや窓のすき間を埋める、帯状の“シール材”)を使用します。エアコンなどの空調ダクトや電源コンセントパネルにも空気の流れる隙間が開いてます。この隙間を塞ぐことも重要です。市販されているコーキングとシーラントには数え切れないほどの種類がありますが、音響用途に設計されたラテックスシーラントを使うことにより、防音と遮音効果がアップします。

既存の壁に遮音層を追加することも効果的です。高密度でありながら驚くほど薄くて軽い低振動素材を提供するメーカーも多々ございます。

部屋全体の改修が難しい場合
部屋全体を遮音するのは大変な労力と費用がかかります。ただし必要な部分だけを遮音することにより、改善されることもあります。軽量で可搬性に優れ、短時間で簡単に組み立て可能な “防音ブース “は、様々なサイズのものが数多く販売されています。また、インターネットで検索すると、多くのDIYプランを見つけることもできます。またギターアンプを隔離する防音ボックスも多くのメーカーから発売されてます。ギターアンプとマイクスタンドが設置可能な小さな防音ボックスからスピーカーとマイク(XLR)ジャックを内蔵したキャビネットまで多くの製品が販売されてます。これらを使ってギター音源を隔離するのも良いでしょう。

反射と拡散
「反射」と「拡散」は、再生する音に部屋がどのように影響するかが関係してきます。どのような空間でも、その環境の特性が聴こえてくる音に直接影響を与えます。誰もいない教会や大ホールと小さなライブハウスでは同じ楽器の音でも全く違う音に聞こえますよね。また、ミックスした音源を別の部屋で聴き返すと、音が違って聴こえるのも音の「反射」と「拡散」が影響してくるが所以です。

スタジオでは、空間の音響特性をコントロールすることが大きな課題となります。これは、壁と壁の距離、天井の高さ、壁が接する角度、壁の表面の素材、テーブルやタペストリーなどの配置、家具、カーテンなど、さまざまな要素に音は影響してきます。

残念ながら、ホームスタジオでは音の跳ね返り、共振、無駄な低域の回りこみなど決していい音響環境ではないことは周知の事実です。例えば壁面に近い場所や部屋の四隅などは反射が多く、ミックス作業に悪影響を与えてしまいます。

解決策を考える前に、まずは問題点を探しましょう。

今日では比較的手軽に音響測定ツールを入手することが出来るようになりました。リアルタイムアナライザー(RTA)は様々な周波数帯域のサウンドを鳴らし、部屋のどこでどのような音が再生されているか視覚的に確認することが出来ます。測定マイクを使いRTAを確認しながら部屋のどこで無駄な周波数が再生されてしまっているか特定することもできます。

ここで一つ重要な注意点。これらのRTAなどの音響測定ツールはあくまでも参考にしかなりません。音を見た目だけで判断するのは大間違いです。まず自分の耳を信じてください。耳で聞いた音をメーター上で確認する程度に収めないと、よいミックスは作れません。メーターだけを信じてEQなど絶対に調整しないでください。

反射と拡散:より良いスタジオの設計
無駄な反射音を防ぐには吸音と反射を組み合わせることにより回避できます。吸音材は反射を防ぐことができ、反射材は音の流れを異なる方向に拡散することにより、音を打ち消しあう効果が得られます。

これらは高価な素材を使うことなく、一般家庭で使っているもので代用ができます。本棚の本も吸音材になります。厚手のカーペットでも厚手のカーテンもこれらの代用になります。遮音フォームやグラスファイバーパネル、ブランケットなど、さまざまな製品も販売されています。

ディフューザーパネルも販売されており適切に設置することにより反射を排除してくれます。平らな面の壁に設置すると効果的です。もちろん多くのメーカーが高密度で吸音性に優れ、かつ音の流れを考えて拡散してくれる幾何学的な形状をした製品を販売しているので色々とお試しいただくことをお勧めします。

バストラップはバレルディフューザーとも呼ばれ音響特性を良くする効果があります。映画館や音楽ホールなどに設置されています。円筒形の形状と不均一な吸音素材を採用し音の反射を防ぐ効果があります。一般家庭向けにあまり市販されている製品はございませんが、このバストラップの技術をスピーカースタンドやスタジオの家具などに採用している製品は多く存在します。

その他の問題と解決策
ここではさらにいくつかの重要な点をご説明いたします。

あなたの「ファン」は大丈夫ですか?
ロックンロールバンドは、会場を盛り上げてくれる「ファン」が必要です。ただしホームスタジオには盛り上げてくれる「ファン」はノイズの原因になります。「ファン」といってもあなたのことが大好きなお客様のことではないですよ。いまや音楽制作に欠かせなくなってきたパソコンの空冷「ファン」です。パソコンの空冷ファンはスタジオ空間で大きなノイズの原因になります。特に防音がしっかりされた部屋ではパソコンから発生してしまっているファンノイズがレコーディングデータにのってしまい後で後悔することになります。デスクトップPCなどでは秋葉原に行ってファンノイズが少ないパーツに変更してしまうのもいいでしょう。またパソコンを防音ケースに入れてしまうのもいいでしょう。もちろんCPUが暴走しないように冷やすことも必要です。

しっかりとしたブースを構築しなくとも
ドラムやギター、きっちりとブースを分けることだけがいいことではございません。ライブ感を出すためには、少し隣のブースの音が漏れてきて音がトラックにかぶることによってライブ感を演出することも出来ます。ライブ録音を行う場合、人の背丈ぐらいある透明遮音パネルを設置します。このようなパネルは無駄な音の回り込みを防ぐことが出来つつ、ライブ録音に重要なライブ感も損なうことなくレコーディングが出来ます。もちろん音の回り込みは完全に抑えられないので、用途に応じて選択してください。

セミアイソレーションに最適なものは「GOBO」です。「GOBO」とは音を吸収したり拡散したりする可動式の小型でポータブルなアイソレーションパネルのことです。「GOBO」は誰でも簡単に自作することができます。片面にカーペットなどの吸音材、もう片面に寄木細工のような反射材を貼ったものが一般的です。また、既製品も販売されています。

最後に
前述の通り、音は環境によって大きく変化します。気温や湿度でも変化する厄介なものです。また楽器のコンディションや部屋にあるもの、人の数、猫や犬の数?によっても変化するものです。このように常に変化するサウンドをどのように処理するか?出来るだけ中立で客観的な試聴環境を作ることが最善の対策です。優れたモニタースピーカー、RTAやスペクトラムアナライザーなどの優れた測定ツールを使い、問題になりうる反射や音の回り込みなどを特定し、解決し最適な音響空間を構築することが大切です。また自身の耳を信じてください。そして可能な限り多くの種類の音楽と、ミックス、楽器を聴いてください。最終的にあなたが持っている最大の武器は自身の耳です。良いミックス、よい環境すべてあなたの耳で判断することが一番重要なのです。

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