いまさらきけないシリーズその19 レコーディングスタジオにおける音響環境

2018年4月4日

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pr_auralex-02_lみなさまはどのようにレコーディングミキシングを行ってますか?ヘッドホンでミックスしてますか?まず、ミックスした音源が様々な環境で聞かれることを忘れないでくださいね。プロフェッショナルレコーディングスタジオでは吸音材やコントロールルームの形状、レコーディングブースの形状、壁の素材等様々な音にかかわる要素を取り入れ、フラットな音になるよう建築やスタジオデザインに多大なるコストをかけてます。この建築音響デザインにかかる費用は音響機材の何倍も費やしている場合があります。

残念なことに、一般的にはプロのレコーディングスタジオみたいに建築音響にお金をかけられませんよね。楽器やプラグインソフト、マイクやミキサーなどにお金をかけるだけで精一杯かと思います。またアパートなどの賃貸住宅では家主の許可を得ず部屋を防音構造に改装することもできません。もし万が一家主の許可を得たとしても壁を取り払って吸音材を入れたり、防音扉をつけたりできる予算もなかなか取れないと思います。幸いなことにパソコンの普及により、昔では考えられないくらい誰でも手に入る予算でマルチトラックレコーディングシステムを構築することが出来る時代になってきました。それではそんな時代に低予算でレコーディングスタジオ並みのレコーディング環境を構築するにはどうすれば良いか、ちょっとしたヒントをお教えしましょう。

まずはスピーカー選定
部屋の音響環境を議論する前にミックスに最低限必要なモニタースピーカーについて述べていきましょう。まずは信頼できるモニタースピーカーを選定することです。1本あたり数十万円するスタジオモニタースピーカーの場合、よほどのことがない限り問題のないモニタースピーカーでしょう。ただしスピーカーであればなんでもいいというわけではありません。世の中に数多くのスピーカーが出回っていますが、それらは原音に忠実なサウンドを再生していないものあるので注意しましょう。レコーディングミックス用モニターとして選択する場合、金額だけで選定してはだめですよ。
XR824_Bear Creek_1家庭用のスピーカーや、iPhoneスピーカー、特定の周波数を誇張するように音作りをしているスピーカーを避け、高域から低域までフラットに再生してくれるモニタースピーカーを少なくとも1セットご用意してください。さらにもうワンランク上のモニタースピーカーも用意する必要があります。Mackie Big Knobのようなモニターコントローラーで切り替えてミックスを比較する必要があります。スピーカーを切り替えたときにミックスバランスが大きく変化するようであれば再度ミックスをやり直す必要があるとお考えください。どのような環境で音を聞いても同じようなバランスで聞こえるミックス、それがすばらしい音源なのです。

これら信頼できるモニタースピーカーとモニターコントローラーを入手したら、今度はあなたの部屋の音響環境(ルームアコースティック)を調整していきましょう。

ルームアコースティックを改善するには
ルームアコースティックを多く語るブログや出版物は世の中に数多く存在します。もちろんみなすばらしい理論を述べていますが、どれも数学的な数値や理論ばかりで難しいですよね?もちろん音は部屋の形状や壁の素材に大きく影響を受けるだけでなく、その日の気温や湿度によっても変わってしまうものなのです。私たちが一般的に音響空間で遭遇する最も一般的に問題になることと、それに対処すべく手段を少しだけ簡単に見ていきましょう。

まず第一の課題はミックスしている部屋の大きさによって音が異なるということです。小さな部屋と大きな部屋で楽器の響きが異なるのと同じことです。あなたのホームスタジオでミックスした音源を他の部屋で聞いたときにミックスバランスが異なってしまうのも、同じ理由です。

一般的なホームスタジオやリハーサルスタジオではこれらの問題に対処する方法はございません。これらの部屋は優れた建築音響デザインを採用していないが所以です。一般的なホームスタジオやリハーサルスタジオは吸音材の入っていない壁、低い天井、反射の多い窓ガラスなど音に悪影響を及ぼす環境下にあるのです。究極の解決策としては膨大な費用と多くの建築材料を使ってスタジオを改装することですが、最近ではワークスペースの環境を少しだけ良くするだけで、これらの問題の一部を改善することができるようになりました。

防音と断熱
音は様々な場所に拡散します。だからこそ音が漏れてしまっている場所をブロックすることが重要なのです。ただしそれは簡単なことではございません。音はワンポイントでその音漏れの場所に行くわけではないからです。一ついえることは、壁の材質が厚く、密度の高い素材は音漏れを防いでくれます。

最も効果的なのは空気と質量の組み合わせです。一般的に知られている建築技術としては「フローティングルーム」です。既存の部屋の中に、もう一つ部屋を作ってしまい、既存の部屋と新たに作った部屋の壁と壁の間に空間を作り部屋を浮かしてしまう技術です。この隙間によって振動の伝達を抑えることができ、防音構造を構築してくれるのです。このような防音部屋を提供してくれるメーカーもあるので相談してみてはいかがでしょうか?既存の部屋にもう一つ防音ルームを構築するので部屋の壁材を変更するより安くあがります。

とはいえ、新たな防音ルームを作る予算もないですよね。音が漏れる場所を少しの工夫で改装することにより防音効果を高めることが出来ます。ドアや窓などは一番厚い素材をつかっている既存のサイズにあったものに交換しましょう。エアコンなどの空調のダクトや電源コンセントにも空気の流れる隙間が開いてますよ。この隙間もきっちり塞ぎましょう。市販されているコーキングとシーラントには数え切れないほどの種類がありますが、音響用途向けに設計されたラテックスシーラントを使ってみてくださいね。

また既存の壁に吸音材を貼ることも効果的でしょう。軽量にもかかわらず緻密性の高い素材を採用した吸音材が最適です。簡単に張ることができますよ。

部屋全体を改装することが出来ない場合
ok-3生ドラムを使わない場合、隔離された防音ブースは必要なくなるでしょう。伝統的なレコーディングスタジオでは隔離された防音ブースはライブ録音を行う際に、ドラムとボーカルやその他の楽器を隔離するために使用されてきました。今でもこのような使い方をしているレコーディングスタジオは多くありますが、多くのメーカーが必要なときに組み立て設置が可能なドラム専用の簡易防音ブースを販売してます。これらを使えばドラム専用の防音ブースを作らなくても大丈夫ですよ。

またギターアンプを隔離する防音ボックスも多くのメーカーから発売されてます。ギターアンプとマイクスタンドが設置可能な小さな防音ボックスからスピーカーとマイク(XLR)ジャックを内蔵したキャビネットまで多くの製品が販売されてます。これらを使ってギターを隔離するのも良いでしょう。

あなたの「ファン」は大丈夫ですか?
「ファン」といってもあなたのことが大好きなお客様のことではないですよ。いまや音楽制作に欠かせなくなってきたパソコンの空冷ファンですよ。パソコンの空冷ファンはスタジオ空間で大きなノイズの原因になります。特に防音がしっかりされた部屋ではパソコンから発生してしまっているファンノイズがレコーディングデータにのってしまい後で後悔することになりますよ。デスクトップPCなどでは秋葉原に行ってファンノイズが少ないパーツに変更してしまうのもいいでしょう。またパソコンを防音ケースに入れてしまうのもいいでしょう。もちろんCPUが暴走しないように冷やすことも忘れずに。

きっちりとブースを分けるのではなく
ドラムやギター、きっちりとブースを分けることだけがいいことではないことは知ってますよね?ライブ感を出すためには、少し隣のブースの音が漏れてきて音がトラックにかぶることによってライブ感を演出することも出来ます。このようにライブ録音を行う場合、人の背丈ぐらいある透明遮音パネルを設置します。ドラムの周りに透明なパネルが立っているのをテレビの音楽番組で見たことありますよね?このようなパネルは無駄な音の回り込みを防ぐことが出来つつ、ライブ録音に重要なライブ感も損なうことなくレコーディングが出来ます。もちろん音の回り込みは完全に抑えられないので、用途に応じて選択してくださいね。

振動を固定する
あらゆる環境におけるサウンドは壁と壁との間隔、天井の高さ、天井や壁の角度、壁の素材など数多くの要素で決まってきます。もちろん設置してある家具やカーペット、カーテンの有無などによっても大きく音は変化します。

前述の通り、一般的にはプロのレコーディングスタジオみたいに建築音響にお金をかけられませんよね。自宅の寝室や空いている部屋でレコーディングミックスをされている方が大半かと思います。このような環境では音の跳ね返り、共振、無駄な低域の回りこみなど決していい音響環境ではないことは周知の事実です。壁面に近い場所や部屋の四隅などは反射が多く、ミックス作業に悪影響を与えてしまいます。

問題を特定すること
Screen Shot 2018-03-21 at 9_52_38 AM今日では比較的手軽に音響測定ツールを入手することが出来るようになりました。リアルタイムアナライザー(RTA)は様々な周波数帯域のサウンドを鳴らし、部屋のどこでどのような音が再生されているか視覚的に確認することが出来ます。測定マイクを使いRTAを確認しながら部屋のどこで無駄な周波数が再生されてしまっているか特定することもできます。一部のオーディオソフトウエアにはRTAの機能が実装されていますし、またより詳しく測定できる機能が実装されたRational Acoustics社のSmaartのようなパソコン専用ソフトウェアも簡単に手に入ることが出来ます。今ではスマートホンなどでも使えるアプリがあるのでぜひ探してみてはいかがでしょうか?

ここで一つ重要な注意点。これらのRTAなどの音響測定ツールはあくまでも参考にしかなりません。音を見た目だけで判断するのは大間違いです。まず自分の耳を信じてください。耳で聞いた音をメーター上で確認する程度に収めないと、よいミックスは作れませんよ。メーターだけを信じてEQなど絶対に調整しないでくださいね。

吸音と反射
無駄な反射音を防ぐには吸音と反射を組み合わせることにより回避できます。吸音材は反射を防ぐことができ、反射材は音の流れを異なる方向に拡散することにより、音を打ち消しあう効果が得られます。
woodberry-forest-school-04これらは高価な素材を使うことなく、一般家庭で使っているもので代用ができます。本棚の本も吸音材になりますよ。厚手のカーペットでも厚手のカーテンもこれらの代用になります。クッション性の高いソファーはリフレクターにもなります。置く場所にもよりますが・・・。ディフューザー製品はちゃんと設置することにより反射を排除してくれます。平らな面の壁に設置すると効果的です。もちろん多くのメーカーが高密度で吸音性に優れ、かつ音の流れを考えて拡散してくれる幾何学的な形状をした製品を販売しているので探してみてはいかがでしょうか?

バストラップはバレルディフューザーとも呼ばれ音響特性を良くする効果があります。映画館や音楽ホールなどで見たことありますよね?円筒形の形状と不均一な吸音素材を採用し音の反射を防ぐ効果があります。一般家庭向けにあまり市販されている製品はございませんが、このバストラップの技術をスピーカースタンドやスタジオの家具などに採用している製品は多く存在します。

結論
前述の通り、音は環境によって大きく変化します。気温や湿度でも変化する厄介なものですよね。このように常に変化するサウンドをどのように処理するか?出来るだけ中立で客観的な試聴環境を作ることが最善の対策です。優れたモニタースピーカー、RTAやスペクトラムアナライザーなどの優れた測定ツールを使い、問題になりうる反射や音の回り込みなどを特定し、解決し最適な音響空間を構築することが大切です。また自身の耳を信じてください。そして可能な限り多くの種類の音楽と、ミックス、楽器を聴いてください。最終的にあなたが持っている最大の武器は自身の耳ですよ。良いミックス、よい環境すべてあなたの耳で判断することが一番重要なのです。

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